大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和62年(し)20号 決定 1987年3月24日

主文

原決定及び保護処分の決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件再抗告の理由は、別紙再抗告申立書記載のとおりである。

少年の再抗告事件において、少年法三五条一項所定の理由が認められない場合であっても、原決定に重大な事実誤認があってこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、原決定を取り消すことができると解されるところ(最高裁昭和五八年(し)第三〇号同年九月五日第三小法廷決定・刑集三七巻七号九〇一頁参照)、所論にかんがみ、職権をもって調査するに、本件記録及び当審において取り調べた警視庁刑事部鑑識課長作成の「指紋の対照結果について(回答)」と題する書面によると、以下の事実が認められる。

少年は、「昭和六一年一〇月二日午前一一時三七分ころ、山梨県北巨摩郡武川村三吹九七八番地付近道路において、自動二輪車を運転して道路の右側部分を通行した」という道路交通法違反の非行事実によって、東京家庭裁判所の審判に付され、審判廷では右事実を認め、同裁判所により保護観察(交通短期)に付された。これに対し、少年は、「身に覚えがない。」として事実誤認を理由に抗告したが、原審裁判所は理由がないとして抗告を棄却した。

ところが、前記書面によると、右道路交通法違反事件の違反者が、違反現場において、交通事件原票中の供述書欄に押した指印は、少年の指印ではないものと認められるから、少年が前記非行事実を犯したものとしてなした保護処分の決定及びこれを是認した原決定には、重大な事実誤認を疑うべき顕著な事由があり、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、少年審判規則五三条二項、五四条、五〇条により、原決定及び保護処分の決定をいずれも取り消し、本件を東京家庭裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂上寿夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島 敦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例